Project member
K.F.
BPO営業部 部長
「高校、大学ではテニスをしていました。社会人になってからの趣味は、スポーツクラブに通うことと、プロ野球観戦。川崎球場を本拠地にしていた頃からの熱烈なロッテファンです」
T.O.
市場開発部 市場開発一課 課長
「高校時代は柔道に熱中。県大会でベスト8まで勝ち進んだことがあります。私もプロ野球が大好きで、ベイスターズのファンです。休日は横浜スタジアムに応援に出かけます」
Project partner
Y.U.
株式会社野村総合研究所
主任アプリケーションエンジニアDX生産革新本部
札幌ソリューション開発部
K.Y.
株式会社野村総合研究所
副主任アプリケーションエンジニアDX生産革新本部
札幌ソリューション開発部
Background
プロジェクトの背景
お客様とリース料だけではない関係を
三菱オートリースは、お客様が営業で使う車や配送トラックをただ単に企業に貸し出す会社ではなく、メンテナンスをはじめ多種多様なサービスによって、自動車を使うお客様を総合的にサポートしている。しかし、日々の業務に追われる社員たちは、契約した後のお客様のサービス利用状況(メンテナンス、保険、給油カード、ETCカードetc…)をフィードバックすることで顧客満足につなげる活動までは、なかなか手が回らない。その状態が続けば、他社との価格競争だけで受注が決まってしまう。
「リース料を交渉するだけの仕事ではつまらない。提供するサービスの利用状況からお客様の課題となるポイントを見つけることで、自社の存在感を示したい」と、長年、思い続けている社員がいた。現BPO営業部の部長、K.F.だ。
一方で、入社以来20年以上、事務一筋に歩んできた現市場開発部市場開発一課の課長、T.O.は、事務の効率化や業務品質の向上のために、業務ごとに独立している社内のシステムを、なんとか一本化できないかと思案していた。
熱い思いを持っている二人が、2017年、市場開発部で一緒になったとき、「DAIS(データ・アナリシス・インフォメーション・システム)プロジェクト」が始動した。
三菱オートリースのDAISは、リース車両に関するあらゆるデータを一元的に管理し、分析して、お客様に役立つ情報として提供しようというものだ。
Oは「私はFが描いたビジョンを実現するための環境を整えるサポート役です」と謙遜するが、新プロジェクトに抜擢された二人は、社内の仲間から「特命」や「相棒」と呼ばれる名コンビになった。
社内公募に挙手
Fは、1997年に入社すると、経営企画部に配属になった。「変な会社ですよ。新卒の新入社員がいても何もできるわけがない部署なのに」と苦笑いをする。
K.F.
「会社分割による社名変更を行う前の三菱オートクレジット・リース時代は、三菱自動車の販売会社から、営業車やトラックを利用されるお客様を紹介して頂いてリース契約を結ぶというビジネスをメインの事業にしていました。しかし、それでは自社の事業が、自動車会社の販売店に依存してしまうことになります。『会社の発展のために、自社で顧客開拓を行う部隊を設けよう』という話が社内で起こり、自社で新規顧客の開発営業を専門に行う法人開発本部ができました」
自社で顧客を開拓する取り組みは始まったが、販売会社の紹介に依存する事業のウエイトは依然として大きかった。「どうにかして状況を変えたい」と願う経営陣は、法人営業に取り組む人材の社内公募に踏み切った。新卒で経営企画部に配属され、もやもやした状態が続いていたFは、迷うことなく手を挙げた。そして、2002年、法人第三営業部に移った。以来、彼は新規顧客の開拓や顧客満足の向上ために、お客様の課題を解決する提案型営業に専念してきた。
K.F.
「今でこそ当たり前ですが、当時スーパーマーケットやコンビニエンスストアは、商品の販売チャンスを逃さないための『定時店着』や、食品の鮮度を保つための『温度管理』という概念が、急激に広まりつつあった時代でした」
予防整備を呼びかける
自動車は予防整備を行えば、故障を未然に防ぐことができる。
K.F.
「そこで、荷主(コンビニエンスストアや食品卸業)から商品の配送を委託された運送会社に対して、『お客様がご利用になっているトラックは、現在、故障していませんが、走行距離や部品の寿命から判断して、そろそろ故障する可能性もあるため、物流を止めないためにも、前もって整備を行いましょう』という取り組みを開始することにしたのです」
食品卸大手傘下の運送会社担当になったFは、定時に、かつ定められた品質で商品を届けたい荷主と一緒になって、「遅配撲滅」、「温度管理の徹底」をうたい文句に、運送会社に対する予防整備のメンテナンス推進に取り組んだ。オートリース会社にとって直接のお客様は運送会社なのだが、運送会社に配送を依頼する荷主の課題を解決することで、顧客満足度の向上につなげようとしたのだ。
K.F.
「自動車部品の寿命は、主に走行距離と経年に左右されます。定期点検の際、走行距離や稼働時間から判断して、次の点検までの間に破損が予想される物を交換しておけば、故障を未然に防ぐことができます。例えば、食品を運ぶ冷凍車は停車中も冷凍機を稼働させているため、走行距離は短くてもバッテリーの消耗は早いなど、車両メーカーの知見も借りながら様々な条件を考慮して、部品交換のタイミングを割り出していきました」
また、もう一つの大事な取り組みとして、単に仕組みを提供するだけではなく、その結果についても定期的に荷主に報告を行った。具体的には、予防整備によって車両の故障がどれだけ減り、どれだけの遅配トラブルを未然に防ぐことができたかを定量データとしてまとめ、そこで新たに浮き彫りとなった課題に対しては、荷主と一緒になって打ち手を講じる活動を継続的に実践した。Fは2007年にロジスティックス営業部、2009年にソリューション営業部に異動になるが、仕事のやり方は一貫して同じだ。荷主や顧客に年1回、レポートを提出し続けた。
K.F.
「レポートを提出するまでは、単なる仕入業者としてしか見られなかったお客様との関係性が、毎年レポートを提出しているうちに、同じ目的を共有する事業パートナーとして見られるようになってきたと感じました。このときの経験から、もっと他のお客様にもこのような取り組みを推進するべきだと強く思うようになりました。」
3カ月を要するレポート作成
しかし、お客様や荷主向けにレポートを作成する作業は、予想以上に大変だった。Fは報告書の作成に毎年、膨大な時間を費やしていた。レポート作成にあたっては、多種多様なデータを社内の各部署から集めなければならない。いずれも顧客の便宜を考え、自社のリース事業に付加価値を与えるために始めたサービスなのだが、部門ごとに異なる手法で管理が行われているため、データがまちまちだった。加えて、過去のデータが適切な状態で保管されておらず、同じ基準で時系列を比較するにはデータを加工する必要もあった。そのため、データを関連させる作業には、とてつもない時間がかかった。
K.F.
「1台の車のデータが一本に紐づけられてなくて、複数のデータが、まるでパッチワークのような継ぎはぎの状態になっているんです。それを通常の業務の合間に報告書にまとめ上げていくわけですから、完成まで2、3カ月かかるのは当たり前でした」
春に取りかかったレポートができ上がるのは、いつも夏だった。毎年、その作業に取り組むたびに、Fは1台の車両を共通のキーコードで管理していく必要性を痛感していた。
Turning point
転機
改革の必要性を経営陣に訴える
Fは、2014年、営業部隊を指揮する営業統括部に異動になった。「キーコードを使って車両単位のサービス利用推移が誰でも、すぐに抽出できる環境を作るべきだ」と思いながらも日常の業務に追われ、現状を受け入れるしかなかった。
そうした日々が続いた2016年、市場開発部で「データベースを活用して経営に役立てよう」という声があることを知った。
市場開発部には前年、事務処理のベテラン、Oが配属になっていた。Oは1991年の入社以降、リースの手続きや入金後の処理などを担当し、リース開発推進部、業務統括部、事務統括部と異動しながら、事務に関するマニュアルやシステムの整備を経験してきた。特に2007年から2009年にかけて、会社分割、経営統合、合併が行われるたびに、業務システムづくりに活躍した人物だった。
「私が市場開発部に異動した当時、乱立するデータを統合して、活用できる状態にした方が良いという話は既に出ていた」とOは言う。
T.O.
「複数の会社が統合してできた当社では、例えば、給油カード一つとっても、それぞれ元の会社のシステムが併存する状態が続いていました。結果、それぞれのシステムから得られるデータもバラバラで、この状態ではデータを簡易に営業・業務活用することができない状態であったからです」
Fは市場開発部の動きに乗じて、キーコードによる車両の管理を実現したいと考えた。2016年のある日、彼は副社長との打合せに参加した。副社長は用件が終わると「今、この会社に必要なものは何だ?」とFにたずねた。「チャンスだ」と感じたFは、キーコード導入に関する持論を述べた。副社長はFの話に耳を傾けてくれた後、「それが実現すれば、お客様にどのような利益をもたらすのか、調べて示してみろ」と言ってくれた。
そこでFは、あるお客様をモデルケースにして、社内からデータをかき集め、交通事故削減に向けた対策を提言するレポートを作成した。結果、経営陣からは「こういうものをお客様に見せるべきだ」と高く評価された。ちょうどその頃、世の中では「ビックデータの活用」が注目されるようになっていた最中。データがバラバラに存在する現状では、報告書の作成に2、3カ月を要するということも分かってもらえた。
「うちの会社もデータの活用を前向きに検討すべきだ」という気運が、社内で高まりつつあった。
Process
プロセス
「特命」コンビ誕生
2016年11月、選任チームを作り、データ統合プロジェクトをスタートさせることにした。チームのメンバーに、FとOの二人が抜擢された。2017年1月、FはOがいる市場開発部に異動になった。
K.F.
「もちろんお互いのことは以前から知っていました。営業の私は、お客様のご要望を抱えて事務のOさんを訪ねては無理を言い、Oさんに『それはできないよ』と言われたり、『そんなに言うならいいよ』と言われたりする仲でした」
二人は向かい合ってデスクに座り、データ統合の方法を一緒に模索し始めた。社内の仲間から「何をしているの?」と聞かれると、Oは「いろいろとね」と答えた。明らかに通常の業務ではなさそうな仕事に熱心に取り組んでいる二人組を、やがて同僚は「特命」や「相棒」と呼ぶようになった。「テレビドラマみたいですよね」とOは笑う。彼らは現状を把握するため、社内にどのようなシステムやデータが存在するかを調べるところから始めた。
しかし、調べれば調べるほど、このプロジェクトが一筋縄ではいきそうもないことに気付かされた。
業務ごとに仕事が回れば問題ないとして設定されたコードは、システムごとに入力方法すらまちまちであったり、一部の過去データはある時期までしか遡れなかった。「データはダイヤの原石のようなものなのに、関連付けて有効利用しようという発想が、これまで全くなかった」ことを二人は改めて思った。
社内のデータ調査を一通り終えた彼らは、キーコードによるデータの紐づけと、その活用の可能性を検証するため、試作システムを作って経営陣の判断を仰ぐことにした。
そして、2017年4月、大手シンクタンクの野村総合研究所(NRI)に、システム開発の協力を依頼した。
K.F.
「NRIさんとの仕事は、予想以上にスムーズでした。私たちの意図を汲み取り、そのために必要なことを的確に教えてくれたからですね」
T.O.
「何社かに打診したなかで、NRIさんの企画書が当社の状況を最も理解し、地に足の着いた提案に思えました。現実に役立つシステムを作りたかった私たちには、流行のIT用語で飾り立てた未来予想図のような企画書は必要なかったのです」
9月、二人は完成した試作システムを上司に見せた。経営陣の反応は良く、本システム開発に向けた予算などの調整が行われ、12月、遂に開発にゴーサインが下りた。
Result
成果
DAISプロジェクトが本格的にスタート
車両のデータを統合する取り組みは「DAIS(データ・アナリシス・インフォメーション・システム)プロジェクト」として、本格的な活動が始まった。システムの構築には、試作に続きNRIにサポートをお願いした。札幌ソリューション開発部のY.U.氏、K.Y.氏を交え、 東京での打ち合わせが続いた。NRIのアドバイスにより、新システムは自社にサーバーを設けず、クラウドサービスを利用することにした。
Y.U.
野村総合研究所
「当社はビックデータ系のシステム構築に力を入れようとしていたところだったので、三菱オートリースさんの依頼は、大変興味深い案件でした。特にクラウドはチャレンジしたい領域でした。しかし、私たちが最もこの案件に魅力を感じたのは、技術的なことよりも、Fさん、Oさんの熱意です。お二人の言葉の端々に『何がなんでもこのプロジェクトを成功させたい。新しいシステムで自社の事業に付加価値を与え、お客様により良いサービスを提供したい』という熱い思いが感じられました」
K.Y.
野村総合研究所
「お客様のなかには『社の方針で決まったので仕方なく』といった理由でシステム開発を依頼され、ご自身は上司との橋渡し役といった方もいらっしゃいますが、お二人は全く違いました。『私はこうしてほしいんだ』と自分の意見をはっきり言い、成し遂げたいビジョンを主体的に持っていて感心させられました」
4人は、膨大な量のデータを結合して、いつでも取り出せる状態で保管できるシステムの構築を目指した。従量課金制のクラウドコストも考慮しながら、効率の良いシステムを作ろうとした。
Future
今後に向けて
さらにビッグデータを扱う、統合DWHプロジェクトに発展
野村総合研究所のサポートを受け、データを集計・分析して、レポートの作成に役立つグラフなどを表示する新システム「DAIS」が完成した。FとOはマニュアルの準備を急ぎ、2018年11月にリリースを行った。
DAISは、それまで3カ月かかっていたレポート作成時間を、わずか1週間程度にまで短縮させた。データの収集だけなら、10分もあれば充分になった。お客様にとって、膨大なデータを活用した意義ある報告書を、極めて短時間で作成することが可能になったのだ。これによって営業担当の負担は、画期的ともいえるほど激減した。しかし、何よりもDAISの開発が達成したことは、営業の意識改革であろう。
K.F.
「ちょうど、営業がお客様に年末年始のご挨拶に伺うタイミングで完成したこともあって、『役に立つ』とか『とても使いやすい』など、社内の評判は上々でした」
しかし、まだまだ課題もある。
K.F.
「システムが開発されて日が浅いこともあり、社内への利用浸透にはまだ時間がかかりそうです。同じ営業でも頻繁に利用してくれる人もいれば、全く利用しない人もいます。今、オートリース業界は変革期の真っ只中にありますが、今後はリース料金を競う価格競争ではなく、お客様が未だ気づいていない課題をいち早く見つけて、その課題解決にお客様と一緒になって取り組み、結果三菱オートリースのリピーターになってもらうというソリューション展開が必要だと痛感しています。とりわけ、新しいシステムに抵抗がない若い社員の方には、DAISの活用を大いに期待しています」
悩みは尽きないが、FとOのDAISプロジェクトは完成し、営業部門のデータ利用が始まった。
更に、三菱オートリースの社内ではDAISを発展させ、営業という枠を超え、社内のすべてのデータを統合する動きが始まっている。統合DWH(データ・ウェア・ハウス)の構築である。それが完成すれば、Oが入社以来、熱望してきた事務系のシステム統合が実現し、社内のあらゆるデータを経営判断などに瞬時に活用できる。市場開発部に残ったOは、現在、DWHの仕組みづくりに情熱を注ぐ。NRIのU氏とY氏も引き続き、DWHの開発をサポートしてくれることになった。
T.O.
「自分達の始めたプロジェクトが完成し、評価され、さらに拡大して、次のより大きなプロジェクトに参加することができました。今、毎日の仕事がとても楽しいんです」
そう語って微笑むOの顔には、充実感がみなぎっている。